新入社員に向けて生成AIの事を伝える役割を仰せつかったので、よい機会だと思い私なりの考えを整理しました。
生成AI時代におけるITエンジニアの仕事とは
今、私たちのまわりでは「生成AI」や「自動化」といった新しい技術が急速に進化しています。
ニュースでも毎日のように取り上げられ、次々と新しいアイディアが生まれ、大きな注目を集めています。
こうした技術の進化によって、ITエンジニアという仕事の内容も大きく変わりつつあります。
そんな変化の中で心がけたいのはAIの熱狂を受け入れつつも同時に「AIが様々な領域に進出しても本質的に変わらないものは何か」を冷静に見極める事だと私は思います。
「受託開発(お客さんから依頼を受けてシステムを作る仕事)」の場面では、以前のように「言われた通りに作る」だけでは不十分になってきました。これからは、「お客さんが本当に困っていることは何だろう?」「どうすればその困りごとをもっと良く解決できるか?」といった問いを自分たちで考え、お客さんと一緒に価値あるものをつくっていく力が求められています。
でもこれは新しいことではなく、アジャイル開発の根底にある昔から求められていた力で、生成AIの発展と共に人でなければできない事がクローズアップされるようになっただけの事なのです。
昔の思想家イリイチは、「道具は使う人の考え方次第で、良くも悪くもなる」という考え方を「コンヴィヴィアリティ(共に生きる技術)」という言葉で表現しました。これは、道具が人間の自由や協力を助ける存在であるべきだという考え方です。
一方、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、パーソナル・コンピュータを「Wheels for the mind(思考のための自転車)」と表現しました。
これは、人の知的能力を代わりにこなすのではなく、より広げる・加速させるものとしての役割を伝えています。
AIも同じで、とても便利な道具ですが、ただ使えばいいというものではありません。
「考えなくていいからAIに任せよう」ではなく、「自分で考え、判断することを助けてもらう」ために使う姿勢が大切です。

技術的な問題と、正解のない問題のちがい
世の中には「すぐにやり方がわかる問題(技術問題)」と、「正解がひとつに決まらない問題(適応課題)」があります。たとえば、プログラムのバグを直すのは技術問題ですが、「このアプリは使いやすいか?」という問いは、人によって答えが変わる適応課題です。
こうした正解のない問題に向き合うには、「すぐに答えを出さずに、よく考え続ける力」が必要です。これを「ネガティブ・ケイパビリティ」といいます。あいまいで難しい状況にすぐに飛びつかず、じっくり考えることが大切です。
そのために役立つのが「アブダクション(仮説を立てて試す考え方)」です。
「こうかもしれない」と思ったことを試しながら学んでいく姿勢です。生成AIは、その仮説を考えたり整理したりするのを助けてくれる、頼れる相棒です。ただし、思いついたことをすぐ試すのではなく、「なぜそうなっているか(原因)」「どうすればよくなるか(解決)」という仮説を立ててから動くことが大切です。
そうすることで、失敗してもちゃんと学べるようになります。
こうした複雑な問題に取り組むには、技術力だけでなく、「ものごとの関係や流れを見て考える力(システム思考)」も役立ちます。たとえば「なぜ同じ失敗が何度も起きるのか」を、関係の仕組みから考えることができます。
技術問題と適応課題の違い、ネガティブ・ケイパビリティ、アブダクション、システム思考─
これらは、AIがあっても人間にしかできない「考える力」を育ててくれる大事なキーワードです。
チームで働くために大事なこと
私は「心理的安全性」を育める力が生成AIを相棒にしていく上で重要だと考えています。
ITエンジニアの仕事はチームで進めることが多く、協力がとても大切です。高いパフォーマンスをもつチームには「心理的安全性」が備わっていたというのはGoogleの調査結果ですが、これは、「自分の意見を言っても大丈夫」「失敗してもみんなで助け合える」と安心できる雰囲気のことを指します。この安心感があると、いろいろな人の意見が出やすくなり、たくさんの視点からアイデアを考えることができるようになります。
ただし、心理的安全性とは「何を言っても許されるぬるま湯のような関係」ではありません。本当に大切なのは、どんな立場の人であっても「課題を良くしよう」と真剣に取り組む姿勢があることです。その意味で、意見の多様性は新しい仮説を生み出すのに欠かせませんが、問題に向き合う“真摯な態度”は全員が共有していなければなりません。
チームに「心理的安全性」が備わるには、リーダーだけでなく全員が「相手のことを思いやる」気持ちを持つことが大切です。ここで役立つのが「NVC(非暴力コミュニケーション)」という方法です。NVCでは、「自分がどう感じているか」「自分にとって何が大切か(ニーズ)」を意識して、相手にやさしく、分かりやすく伝えることを大切にします。
この考え方を使うことで、お互いを理解しやすくなり、チームの関係も良くなっていきます。
さらに、自分がどんなことを大切にして働きたいのかに気づくことで、「やる気(内発的動機)」が強くなります。
そして、自分のやりたいことが見えてくると、生成AIはその挑戦や学びを後押ししてくれる強い味方になります。
最後に
AIが進化しても、ITエンジニアに求められるのは「考える力」「人と協力する力」「変化に対応する力」です。
AIはあくまで道具であり、それをどう使うかは人間の力にかかっています。これからエンジニアを目指す皆さんには、自分の問いを大切にしながら、仲間と学び合い、よりよい未来をつくっていくことを期待しています。